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■(特集2) ─ 医療・福祉問題について ─


茨木市の医療現場を変えるには?

●医療訴訟で悩む、産婦人科を私たちで守ろう!
まず、皆さんに知っていただきたいのは、なぜ今、産婦人科や小児科の医師が減っているのかということです。
 産婦人科や小児科は診療報酬が少なく、従来から医師数も少ないため大変激務であることは言われ続けてきました。しかし、以前よりも医師数が減っているのは何もこれだけの理由ではありません。
また、(特集1)で述べた新研修医制度だけの問題でもないのです。

 事の発端は福島県立大野病院事件でした。
記憶にある方もいらっしゃると思いますが、帝王切開中の出血により産婦が死亡し、産婦人科医が逮捕された事件です。
この経過は癒着胎盤剥離中に多量の出血が生じ、輸血をおこなった。そして輸血終了後に子宮を摘出した後、止血操作中に突然の心室細動により妊婦が死亡したものです。この事件は業務上過失致死罪および異状死の届出義務違反の疑いで現在も係争中です。ただこの事件により医療従事者のおかれる環境は一変しました。医師の罪状は業務上過失致死罪です。
本来、結果の予測が不可能な医療行為に対して、「結果が予見出来たにもかかわらず回避しなかった」を罪にする業務上過失致死罪の適用は理解に苦しむものです。100%の成功しか認めないと言うのであれば私たちはロボットに医療をまかせるしかありません。このようなことが普通に行われるならば、リスクがある医療行為をする医師は存在しなくなるでしょう。

 また、この事件は医学的に検討して医療過誤と断定することが難しいとの見解が大半を占めています。医療関係者の私もこの事件での警察、検察、マスコミのあり方には疑問を感じざるを得ませんでした。この事件には多くの医療従事者から声があがっています。事件を境に産婦人科医を始めとする多くの医師たちは衝撃を受け、激務の医療現場から去っているのです。

 そして、この問題は茨木市で産婦人科をされている医師たちにも大きな影響を与えているのです。

 私は、現在も医療現場を歩いている中、ある産婦人科の医師からこんな言葉をいただきました。
「私の代で産婦人科は辞めようと思う。息子も医者を目指しているが、産婦人科にはさせない。」
「あんな事件で犯罪者にされるなら、産婦人科はできない。」
また別の医師からも「こんなに簡単に訴訟をおこされると、医療業務に集中できない。」との声でした。
確かに、先の大野病院事件のように適切な医療行為をおこなったにも関わらずに逮捕されたり、訴訟をおこされれば、医療に集中できないというのは最もな話です。訴訟を抱えながら、医療をおこなう。このような精神状態では医療過誤でなくても事故を起こす可能性はでてくるのではないでしょうか。

 そこで私は、病院や医師が訴訟を丸抱えにすることによって医療業務に専念できない状態や、訴訟を恐れて医療行為ができなくなるような仕組みを変えるために、市の相談窓口を開設すればよいのではないかと考えています。
訴訟をおこす前に患者側と医師側の間に行政がワンクッションを入れる仕組みをつくるのです。このような試みはNPOが少しずつおこなっていますが、全国にはまだ広がっていないのが現状です。NPOの成長を待つのもひとつですが、待ったなしの医療現場では、NPOが成長するまで行政にてこの制度を設立すればよいのではと考えます。


●お父さん、お母さん「#8000番(小児救急電話相談事業)」を知ってください!
 小さい子どもたちをお持ちのお父さん、お母さんが休日・夜間の急な子どもの病気にどう対処したらよいのか、病院の診療を受けたほうがよいのかなど迷ったときに、すぐ救急車を呼ぶのではなく、小児科医・看護師へ電話による相談ができるものです。

 この事業は全国同一短縮番号(#8000)をプッシュすることにより、地元の都道府県の相談窓口に自動転送され、小児科医・看護師から患者の症状に応じた適切な対処の仕方や受診する病院等のアドバイスが受けられます。

 私はこの事業についてもっと啓発活動をおこなうべきだと声をあげてきました。
夜間救急の大半が小児科の患児であり、7割近くがすぐに治療が必要でない軽症の患児でもあること。この状態が続き、小児科医が疲弊し、救急隊も疲弊すれば、本来救わなければならない重症の患児が運ばれてきた場合に対応ができないことになるかもしれません。
 ただ、お父さん、お母さんもコンビニ受診をしたくてしているわけではなく、自分のことなら我慢できても、子どものことになると冷静でいられず、救急車を呼んだり、救急病院に駆け込んだりしてしまうこともあると考えます。

 そこでこの事業をもっとお父さん、お母さんに知ってもらう活動が必要なのです。
行政との話し合いをしましたが、事業主体が都道府県のため市町村での啓発活動がうまく波及していない感じを受けました。また、縦割り行政の弊害か、医療福祉分野での啓発活動はおこなっていても、教育関係との連携がうまくいっていない感じも受けました。現に、保育園、幼稚園、小学校など小さな子どもたちをもつお父さん、お母さんに「#8000番」の存在を聞くと、認知度は2割程度でした。

 今後必要な課題は、事業主体が都道府県であっても、医療現場は市町村で対応するわけです。「私たちの街の医療は私たちで守る。」との考えで市町村での縦割り行政の壁を越えた大きな活動をおこなう必要があると考えます。


●茨木市の2次救急病院を守るためのお金は無駄ではない!
 茨木市に長く住まれている方はご存知のように、茨木市にも昔、市民病院がありました。
しかし、市民病院は財政悪化の際になくなった状態です。その後、茨木市の医療を支えてくれたのは、開業医、病院勤務医の皆さんでした。私も、子ども時分に何度も助けていただきました。

 議員になり、市民病院を持たない、茨木市の救急受け入れ病院には補助金がどれだけ与えられているのかを調べました。
すると驚いたことに、たった年間数百万円が大阪府から補助されているだけで、茨木市独自での補助がないのです。なぜこのようなことになっているのか。
それは医療問題の多くは市町村単独で取り組むことがなかなかできない仕組みになっているからです(6月の街頭演説内容参考)。

 サラリーマン時代に茨木市の医療現場をまわっていた経験から、様々なルートを使い、各民間病院の経営状態を聞くと、どの病院も経営はそれほど楽ではない状態でした。特に2次救急を受け入れる病院ほど負担が大きい割に補助金が少なく、救急指定を取り消す病院もでてきています。
 また、行政からの情報や医療機関からの情報で、現在茨木市で事故や病気で救急搬送がおこなわれる際に、市内の病院で受け入れてもらえる確率は50%を切っているようです。たらいまわしはおきなくても、高槻市や摂津市、吹田市、箕面市など近隣市町村の遠い場所まで搬送されることもおきています。
 確かに私たちは近隣の遠い病院まで搬送されても適切な治療が受けられれば運がいいのかもしれません。
しかし、次に待ち構えているのが、入院などをした際に家族の看護の問題です。多くの皆さんから寄せられる声は、「年をとると、看護に行きたくてもなかなか行けない。交通費も馬鹿にならない。」「共働きでは同じ市内に入院していないと足が運びにくい。」などの声です。

 何も、地方の医療だけが崩壊しているのではなく、恵まれている都市部の茨木市でも医療崩壊はおきているのです。

 そこで私は、3年前から「小児救急医療や2次救急でお世話になっている済生会茨木病院に補助金をだして付属の診療センターをつくってはどうか。」「せめて2次救急や救急受け入れをしてくれる病院には市独自での補助金を捻出することはできないのか。」とのやりとりも行政とおこなってきました。
最近医療問題が大きく取り上げられてから多くの議員も私の声を後押ししてくれるようになりましたが、この問題にはまだまだ課題があります。
例えば、「医師の人件費がいくらかかり、設備投資や維持費にいくらかかるのか。」の提案もなく、「設置して欲しいからお願いします。」だけでは話は通らないのです。もし実現するのであれば、私たちの税金を、どこからどれだけのお金をうごかすことになるのかを論じる必要があると考えています。
 その際には「私たちの命を守るための投資は無駄ではない。」と言うことを市民の皆さんにご理解いただけるように説明をしていきます。


地域で医療を守り、育てるということは?
    (私たちにできること〜地域医療再生モデル〜)


●リハビリ医療−熊本市では行政が旗振り役になり地域連携クリティカルパスを運営。
 本年度、厚生労働省から地域連携クリティカルパスシステムを導入するようにとの通知がでました。
この地域連携クリティカルパスというのは何かと言うと、例えば脳梗塞でAさんが倒れて救急病院に運ばれ治療を受けたとしましょう。すると救急病院で治療をおこない、麻痺が残った際には、リハビリもおこないます。しかし、救急病院は急性期型の病院なので一定の治療が終われば療養型の病院か、もしくは介護施設、在宅医療などに移行していくのです。
 そこで今まで問題が起きていたのは、救急病院から異なる施設に移行する際に患者の治療方法やリハビリ内容などの詳細情報は次の移行施設に適切な伝達がされていなかったのです。これにより、次に移行した施設は、患者が前の施設でどのような治療を受けたのかがわからず、いちから手探りでリハビリなどを始める状態でした。この状態では、適切な治療やリハビリが実施されず、患者は予後が思わしくない。施設側は手探り状態で適切な処置ができない。行政は無駄なお金を払わなければならない。という負の循環になっていました。

 この背景には個人情報保護法があり、患者の治療内容は公開できないというものでした。患者の共通した情報が異なる施設間で交換されず、各施設がバラバラのことを行わざるを得ない状態でした。
 熊本市では、このような負の循環を断ち切るため、行政が旗振り役として先頭に立ち、患者の治療の役に立つのであればということで、個人情報保護法の解釈を大きくとりました。
そして地域の医療機関の協力を得、患者の情報がリアルタイムに交換できる地域連携クリティカルパスというシステムをつくりました。これにより、患者はどの施設に行っても適切な処置が受けられる。施設側は適切な治療を提供できる。そして行政は無駄なお金をかけずに適切な治療費を補助する。というWIN−WINの循環ができました。
 これをみると、なにもお金をかけなくても発想の転換や工夫で循環を変えることができる一例ではないでしょうか。
 ちなみに…蛇足ですが、現在、国はリハビリは必要ないとの考え方が強く、リハビリを受けることができる日数を削る状況になっています。
しかし、社会復帰ができていない状態でリハビリを削り、社会に戻すことで、再度大きなケガをしてしまい、長期入院になったり、年配の方ではこの長期入院により認知症に至るケースも多くなっています。

 私は医療関係者ですが、恥ずかしながら、数年前までリハビリの力を軽視していました。
しかし、祖父が7年前に脳梗塞で倒れた際に、一時期、寝たきりの可能性を示唆された状況が、リハビリの医師、療法士の方々のお力添えで普段と同じ生活ができるまでに戻りました。もし、リハビリが適切に受けることができなかったら…。
家族の看護の問題だけでなく、医療費の増大も考えられます。自分の目でみると、リハビリ医療を削減することは、長期的な観点からみて、医療費の増大を招いていると考えます。


●小児科医療−丹波市ではお父さん、お母さんが立ち上がり、行政に頼らず自分達で小児科を守る動き
 兵庫県丹波市では平日、診療所に行けば済む状態なのに、休日・夜間の救急医療を利用するコンビニ受診が横行していました。全国の小児科と同じ状態で、医師が疲れ果て、現場を去っていく状態でした。
 そこで立ち上がったのが地域の20代、30代のお母さんたちでした。「私たちには何ができるのだろう」と考え「県立柏原(かいばら)病院の小児科を守る会」を発足させ、まず、署名活動を行い、県に「医師の派遣」を求めました。

 しかし、「困っているのは丹波市だけではない。」との返答のみで、お母さんたちも署名をもっていけば何とかなるだろうとの甘い考えは通用しなかったことに気付きました。
そこでお母さんたちは「行政に頼るだけでなく、自分たちでできることをやろう」との気持ちで、まず「お医者さんに感謝の気持ちを伝えよう。『ありがとう』と言おう!!」の活動や病院の草刈りに参加しました。
今、柏原病院の小児科には患児やお父さん、お母さんが感謝の言葉をつづった「ありがとうカード」が掲示されています。

 この「県立柏原病院の小児科を守る会」のスローガンは
   ?コンビニ受診を控えよう
   ?かかりつけ医を持とう
   ?お医者さんに感謝の気持ちを伝えよう。
という簡単なものです。
しかし、実行するとなると問題もでてきます。
 例えば「コンビニ受診を控えるのはわかるが、どのタイミングで病院に行けばいいんだろう」との問題もでました。会は、すぐにお母さん向けの冊子を作ったのです。子育て雑誌や様々な参考資料を集めたり、医師のアドバイスを受けながら取り組み、熱が出た・せきが出る・下痢などの症状項目別に見ていくと、どのように対処をするべきなのかがわかる仕組みになっているものです。
この冊子をお父さん、お母さんが用いるようになり柏原病院の夜間・休日の患者は半減し守る会の活動は、目に見える結果となりました。
 現在、丹波市は、日本で最も小児科医が働きやすい地域との声もでてきています。またこのような活動を市民側からおこなった結果、丹波市も小児科医の人件費を負担する緊急事業をスタートさせる結果にも結びつきました。
 守る会代表の丹生さんは、現在様々な地域医療再生を考える講演会などに呼ばれ、このような話をされています。
「医療とは『施し』を受けるものではなく、医師と患者が互いに思いやることだとわかりました。」

 これは私たちにも共通することであり、私たちの街でも実行できることではないでしょうか。
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